以前の職場で、残念ながら相性の合わなかった女性事務員は能面のように無表情でした。
あるとき、普段ブスっとしている事務員が「私は愛想笑いをしたくない」と言い放ちました。
この一言は今でも忘れられません。
その一言が発せられたのは、取引先H社の受付嬢の話題をしていたときでした。
H社の受付嬢は、訪問した私に気付くとニコッと笑顔を見せてくれます。
その感じの良さに感心したことを伝えたところ、「私は愛想笑いをしたくない」と真っ向から盾突くような発言をします。
確かにムリして不自然な愛想笑いをされるのは、される方もいたたまれない感じがします。
でも私は声を大にして「あなたの無愛想よりはずっといいよ」と言いたくて仕方がありませんでした。
あえて言いませんでしたが。
無愛想も愛想も、その人が選んだコミュニケーションの一表現です。
でもどうせなら相手に不快感を与えない愛想のよさを目指したいものです。
本サイトの記事では、無愛想と愛想の事例を紹介します。
無愛想でいるよりも愛想のいい人を目指したくなるに違いありません。
1.無愛想は損失
地元に菓子店がいくつかありました。
そのうち仮称・ヤマダ屋とマエダ製菓で同僚にお土産を買いに行ったときのことです。
その日は会社合同の新年会が開かれる日でした。
9人分の菓子を用意する必要があります。
まずヤマダ屋に行きました。
店の奥から出てきた女性店員は、残念なことに愛想がありません。
「いらっしゃいませ」もなく、無表情です。
直前まで、店主である旦那と夫婦喧嘩をしていたのではないかと思えるほどの冷たさでした。
「どれがお薦めですか?」と聴けば、事務的な口調で答えます。
その愛想のなさに、この店で買うのをやめようかと思ったほどでした。
店員はそつなく仕事をこなしているつもりかもしれません。
でも全く親しみを感じることができませんでした。
少し不愉快になったものの、購入せずに店を出るのはためらわれたので、財布のヒモを緩めることにしました。
1個、2個の数ではありません。
一人3個ずつとして合計27個にもなります。
ヤマダ屋にとっては、上得意客と言えるはずです。
会計をお願いしたところ、やはり店員はニコリともせず、機械的に菓子を袋に詰めます。
そして無表情のまま手提げ袋を私によこします。
店員は仮にアルバイトだとしても、その店の看板です。
まして店主の奥さんならなおさらです。
少しくらいうれしそうなそぶりを見せてくれた方が、こちらとしても気持ちが良くなりますが、そんなそぶりは一切ありません。
のどに異物が詰まったような気持ちで店を出ました。
つぎにマエダ製菓に向かいます。
マエダ製菓の女性店員は、私の姿を認めると「あらっ!」とうれしそうな声を上げ、「いらっしゃいませ。今日はうぐいす餅が半額ですよ」と薦めてくれます。
ヤマダ屋とは対照的です。
当初うぐいす餅を買うつもりはなかったのですが、感じ良く薦められたら断れません。
8個入りのうぐいす餅を購入しました。
さて、ここで質問です。
私がつぎも積極的に利用したいと思ったのは、ヤマダ屋とマエダ製菓のどちらでしょうか。
言うまでもありませんね。
ネットの口コミを見ると、ヤマダ屋の接客について「無愛想この上ない! 先代の女将の愛想がよかった」と「☆一つ」の低評価を付けるものさえあります。
まったく同感です。
接客業なのに、無愛想でいて良いことなど、恐らく一つもないでしょう。
加賀田氏の事例
加賀田セールス学校学長の加賀田晃氏は、25歳のときに高級クラブの支配人を務めた経験があるそうです。
その高級クラブをオープンさせるため、加賀田氏はキャバレーなどから68人ものホステスを引き抜きます。
「超」が付く高級クラブだったようです。
当時の人気ナンバー1が「朝子」です。
大変な美人かと思いきや、そうでもありません。
加賀田氏によると「おばさんです。ショートカット。毎日着物。歩くのガニ股」。
毎日着物を着ていたのは「三段腹の体型を隠すため」と、他のホステスからまことしやかにささやかれていたそうです。
ナンバー2が「寛子(ヒロコ)」。
この女性も美人ではありませんでした。
加賀田氏は寛子を無情にも「犬」にたとえます。
「皆さん、あの犬好きな人いる? いる? チンって知っている? あの顔くしゃくしゃ、色の黒い、あのチン。そっくり。
この人もおばさん、色黒、顔ぐちゃぐちゃ。小柄」。
そして加賀田氏は続けます。
「この寛子、歩かない。
飛ぶんです。
『あら~、いらっしゃい~』。
身が軽い、細い、背が低い。
顔くしゃくしゃ。
可愛げも何もない。
この寛子がナンバー2。
わからんかった。
なんで朝子がナンバーワン?
なんでチンがナンバー2。
わからん」。
二人とも美人とは程遠いのに、真っ先に指名が入るほどの人気でした。
ほかにスタイルが良く、顔が綺麗で色気のあるスタッフがいるにもかかわらずです。
だから加賀田氏は、当初「わからんかった」と言っているのです。
ただ、売れる女の子と売れない女の子を観察していて、だんだんと分かってきたようです。
以下、加賀田氏の説明を引用します。
愛想もこそもないヘルパーのホステスと、ナンバー1の朝子、ナンバー2の寛子との違いは 「愛」があるかないかだと加賀田氏は指摘しています。
愛想がないのは「愛がない」と同義なのかもしれません。
2.まとめ
「愛想笑いをしたくない」と言っても、愛想笑いは無愛想よりずっとマシです。
元アナウンサーから、テレビ映りが大事なので笑顔のトレーニングをすると聞いたことがあります。
不自然な愛想笑いでも上達すれば、自然なほほ笑みに変わります。
鏡の前で口角を上げる練習をしてみてもよいでしょう。
相手に不快感を与える無愛想には、何のメリットもありません。
選ぶなら愛想のあるコミュニケーション一択です。
YouTube講演家で知られる鴨頭嘉人氏も、「 愛想笑いは、自分のためではなく、あくまでも相手のためにしている笑顔なので尊い」と肯定しています。
無表情の能面よりは、ずっとマシです。
後日談
ちなみにマエダ製菓で購入したうぐいす餅の件ですが、普段からとても愛想のいい元同僚のナオミさんにあげることにしました。
ナオミさんは、私と最も相性の合う事務員です。
異動で職場は別々になりましたが、本気で「運命の女性では」と思ったほどです。
下戸の私は、いつも帰りに車で彼女を送っていたので、彼女の自宅に着いたらうぐいす餅をプレゼントしようと思っていました。
これまで彼女の自宅前に停めた車中で、よく話し合ったものです。
恋バナの相談を受けたこともあります。
てっきり相手も気があるものだと思っていました――。
それなのに、まさか新年会の会場に婚約者の男性が現れるとは。
彼女が頬を赤らめながら「入籍することになりました」とサプライズの報告をし、一同が虚を突かれて声を失っていたところに「彼」が現れました。
新年会の帰り道、私は仲睦まじく歩くナオミさんと婚約者の後姿を黙って見送りました。
そして一人、アパートに帰り着いた私は、車のトランクに忍ばせてあったうぐいす餅を取り出し、自宅で一気に平らげました。
やけ食いに近かったか否かは、あなたのご想像にお任せします。
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売れない子っていうのはヘルパーです。
お客様持っていない。
誰も指名しない、その子。
だから指名されたテーブルに行く。
酒を作ったり、なんか横に座っていたり、これがヘルパー。
ヘルパーと、お客さん持っている女との違いはこれです。
(座って身動きしない)
これです。座っているだけ。
愛想もこそもない。
ときには、お客さんが怒ります。
「お前何じゃ」と。
「お前ホステスじゃろ」と。
「なんでしゃべらんのか。
なんでワシがお前に気を使わなきゃいかんのか。お前が気を使え」と。
「お前、仕事やろ」とモロに怒るお客さんもいます。
あまりに頭にきて。
座ってるだけ。
一言もしゃべらん。
愛想がない。
朝子は違う。
寛子は違う。
「いらっしゃい、タナカさん。おひさしぶり。
外寒かったでしょう。コート取りましょう」。
あったかい。
やさしい。
水割りを作っても、売れない女の作り方。
手付きに愛がない。
コップの置き方も無造作。
飲むんなら飲めってもんですよ。
もう無造作。
朝子は違う。
朝子は丁寧に回して止めて、ちゃんと雫(しずく)を落としてそして、
自分の絹のようなハンカチで綺麗に拭いて「お待たせ」。
うれしいよ。
水割り一杯に愛がこもっている。
美人じゃないけど癒される。
私、その時に初めてわかった。
女の値打ちは、顔じゃない。
それは綺麗にこしたことはないけれど、外見じゃない、スタイルじゃない、女の値打ちは(中略)優しさよ。
思いやりよ。気づかいよ。愛よ。
あったかくなければ、愛がなければ、女じゃない。
そう思いませんか?
私その時初めてわかりました。
女の値打ちはこれ(愛)や。
愛がない女なんておらんでもいい。
『加賀田式セールスの全て セールス六法《書き起こしマニュアル》』より