新潟市内のビジネスホテルで夜勤のフロントマンをしていたころ、先輩から「いいか。お客様の名前を覚えろ。お客様の名前を言ってから部屋の鍵を渡せ」と言われました。
もちろんすぐに覚えられるはずもありません。
それでも約70室と小さめのホテルでしたので、少ない常連客の名前を覚えるよう努力しました。
覚えたつもりでも、私の場合、お客の名前を間違えたことが何度かあります。
ダメなフロントマンでした。
深夜に帰ってこられたお客に鍵を渡すとき「おかえりなさいませ。マツザキ様」と言って鍵を渡すのですが、私の間違いに気づいたお客が「いや、モリサキ(仮名)だけど」と顔をしかめます。
鍵を渡すとき、部屋割り表でお客の名前を確認すればいいのですが、切羽詰まっているため、おぼろげな記憶に頼ってしまうのです。
その結果、名前を間違うという失態を演じてしまいました。
名前を間違って呼ばれたら、だれでも不快に感じるはずです。
逆に名前を正しく呼んであげられるなら、顧客満足の向上につながります。
お客は「おお、自分の名前をちゃんと覚えていてくれたのか」と感動するのです。
本サイトの記事では、相手の名前を大事にすることによって相手の重要感を満たし、相手から好かれるようになるという真実をお伝えします。
あなたは人の名前が心地良さを生み出す「メロディー」であると理解し、相手の名前を意識して呼ぶようになるでしょう。
人からも好かれるようになります。
1.名前で呼ぶ
あなたが父親なら「パパ」、母親なら「ママ」と呼ばれることに抵抗はないでしょう。
それでも私たちには、固有名詞である名前を持っています。
「〇〇ちゃんのパパ」「◇〇君のママ」と呼ばれるよりも、自分の名前で呼ばれた方がうれしいものです。
アニメ「クレヨンしんちゃん」の野原しんのすけが、父親を「ひろし~」母親を「みさえ~」と名前で呼ぶのは、名前を大事にするという点では望ましいことです。
ただし子どものくせに、親の名前を呼び捨てにすることが間違っています。
コミュニケーションにおいて人の名前を大事に扱うことは、意識しておいて損はありません。
損しないどころか、得します。好かれます。
相手の重要感を満たすことにつながるからです。
営業にも有効な「名前」
加賀田セールス学校の加賀田晃氏は、お客を「お客様」と呼ぶよりお客の固有名詞である名前や会社名を使って呼びかけるよう勧めます。
受講生とのロールプレイングで、セールスマン役の受講生が加賀田氏を「お客様」と言ったときのことです。
加賀田氏は以下のように注意します。
あなたがセールスマンとして商談相手と向き合っているなら、「お宅では」とか「お客様は」と呼びかけてはいけないということです。
相手の名前が分からない場合は相手の会社名を、相手の名前が分かる場合は「〇〇社長様は」とか「〇△主任さんは」などと名前を添える必要があります。
加賀田氏が「何を言うときも、お名前を添えて話しなさい」と勧めるように、たった1回だけでなく「何を言うときも」名前を添えるようにしたいものです。
D・カーネギーの『人を動かす』から
カーネギーは著書『人を動かす』で「人に好かれる六原則」を説いています。その三番目の原則に「名前を覚える」があります。本文を引用します。
人間は他人の名前など一向に気にとめないが、自分の名前になると大いに関心を持つものだ(中略)。
自分の名前を覚えていて、それを呼んでくれるということは、まことに気分のいいもので、つまらぬお世辞よりもよほど効果がある。
逆に、相手の名を忘れたり、間違えて書いたりすると、やっかいなことが起こる。
カーネギーは「人間というものは自己の名前に並々ならぬ関心を持つ」「人に好かれるいちばん簡単で、わかりきった、しかもいちばん大切な方法は、相手の名前を覚え、相手に重要感を持たせることだ」と強調しています。
このように「名前は、当人にとって、最も快い最も大切なひびきを持つことばである」ことを忘れてはなりません。当人にはメロディーのように心地良く聞こえるのが、その人の名前なのです。
理容店での体験談など
常連客として利用した理容店「髪工房」には、かつて30代前半の女性スタッフがいました。
マキさんといいます。
このマキさんがお客の名前を効果的に使っていました。
店の扉を開けて入ると「いらっしゃいませ~。モタヨシさん」と名前を添えます。
自動シャンプー機器の椅子に座り、洗髪のために背もたれを倒してもらうとき「モタヨシさん、倒しますよ」、終われば「モタヨシさん、椅子を戻しますよ」と言われ、髪を切るときには「モタヨシさん、あちらの理容椅子に移ってくださいね」などと言われます。
マキさんは物事の動作ごとにお客の名前を添えるのを忘れません。
そして聞く方は心地良いのです。
立憲民主党所属の衆議院議員、逢坂誠二氏が開く「新春の集い」に得意先の社長からチケットをいただいたので参加したときのこと。
逢坂氏は私が、受付で別の人から「モタヨシさん」と呼びかけられたのを聞き逃さなかったのでしょう。
名刺を渡したわけでもないのに、逢坂氏から「モタヨシさん、ことしもどうぞ宜しく」と言われ両手で握手されたのを覚えています。
びっくりしました。
よくぞ私のような肩書のない人間の名前を覚えられたものです。
その場限りとはいえ、名前を呼んで握手する方がずっと効果的であることをご存知だったのでしょう。
メールマガジンの件名にも、よく名前を入れてくる人がいます。
まったく顔も知らない相手ですが、件名に「モタヨシさん、ちょっとお聞きしていいですか」「モタヨシさんに伝えたいこと」とあると、まるで親しい人からメルマガが送られてきたかのように錯覚してしまいます。
そしてメルマガをクリックして開いてしまいます。
もちろんやりすぎは、飽きられるので禁物です。
本サイトの記事で何度も登場する相性の悪かった女性事務員は、驚くことなかれ一度も私のことを「モタヨシさん」と呼んだことがありません。
3年間一緒に仕事をしていたにもかかわらずです。
名前は省略すべきものとでも考えていたのでしょうか。残念なことです。
それでも一度か二度「支局長」と呼んでくれました。当時の私の役職名です。これっきりです。
もちろん私の方は女性事務員の名前を意識して使うようにしました。
仮に「ヤマダ」さんだとすると、話しかけるときは「ヤマダさん、請求書の件だけど処理しておいてもらえる」などと名前を添えるようにしました。
いつか私の意図に気付いてくれると思ったのですが、彼女が辞める日まで本人の口から「モタヨシさん」という呼びかけを聞くことはありませんでした。
口が裂けても言いたくなかったのでしょうか。
私としては不快指数が上がることはあっても、下がることはありませんでした。
冒頭に挙げたビジネスホテルには、当時20代後半の女性スタッフがいました。
名前は五月生まれなので、旧暦の呼び方である「サツキ」といいます。
このサツキさんは全国名字ランキング№1の名字を持っていましたが、なぜか名字で呼ばれるのを嫌がりました。
「私のことを『サトウさん』ではなく、『サツキさん』と呼んでちょうだい」とお願いするのです。
サツキさんはドキッとするほど美人で、背が高くモデル体型でした。
プライベートで親しいわけでもないのに、下の名前で呼ぶことに「いいのだろうか?」と戸惑ったのを覚えています。
ただ周りのスタッフはみんな「サツキさん」と呼んでいました。
彼女としてはありふれた名字で呼ばれるより、固有名詞である名前で呼ばれる方が心地よかったのでしょう。
2.まとめ
コミュニケーションで人に好かれようと思ったら、相手の名前を大事にする必要があります。
相手の名前を大切に扱うことによって、相手は重要感が満たされます。人の名前は、当人にとって快い響き、心地良さを生み出す「メロディー」です。
「何を言うときも」、可能な限り相手の名前を意識して呼ぶようにしましょう。
コミュニケーションでは名前、名前、名前が大事なのです。
お客様と言っちゃいけない。
君、ハシヅメくんよね? 会社はコミュニケーションラインよね?
それを「あなた」とか「お客様」って言われるより、「ハシヅメさん」と名前を、固有名詞を呼んでもらった方が、気分がいい。
それを不特定多数じゃあるまいし、「お客様のところに」とかそういう抽象的な言い方はしない方がいい。
「こちらのコミュニケーションラインさんの場合」と固有名詞を言う。
会社名、相手のお名前が分かっているなら相手のお名前。
「お宅」とか「お客様」という言い方はしない。
なんか他人行儀、そらぞらしい。
何を言うときも、お名前を添えて話しなさい。
「こちらのミヤコ商事様に」とか「カガタ主任さんのところにはNTTからの請求書先月分、もう届いておりますでしょうか?」
固有名詞を添える、名前を添えて。
『加賀田式セールスの全て セールス六法《書き起こしマニュアル》』より