あなたは、お金があると使ってしまうタイプですか。
それとも、貯蓄するタイプですか。
私は「宵越しの金は持たねぇ」などと豪語し、毎月の給与をきれいさっぱり使い切るタイプでした。
クレジットカードを限度額いっぱいまで使い切り、「一番見返りが大きい投資は何か知っているかい? それは『自己投資』。自分自身に投資することが最大の投資だよ」などと粋がっていたものです。
また、20代で高額な自己啓発教材を購入した経緯があるため、浪費を正当化する方便として「自己投資は善」と言い聞かせ、大枚をはたくことに抵抗はありませんでした。
見返りの大きい「自己投資」のためなら、進んで借金するほどです。
だからか、一向に貯金は貯まりません。
でも最近、自分の考えは誤っていたことに気付かされました。
当時の国家予算の七分の一に当たる資産を築いた安田善次郎(1838~1921年)は、実証済みの蓄財法を説いています。
それが「支出は収入の一〇分の八以上に出てはならない」(安田善次郎)というものです。
あまりにもシンプルな蓄財の秘訣となります。
私を含め、多くの人は安田善次郎が指摘するように「いたずらに外見のみを飾り、衣服から持ち物まで流行を追う」といった浪費を得意としていないでしょうか。
収入を多くするよりも支出を少なくすることを心がければ、安田善次郎のように大富豪とまではいかなくてもプチリッチくらいにはなれるかもしれません。
安田善次郎とはだれか
安田善次郎(1838~1921年)は、安田銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)をはじめ、日本を代表する銀行グループをつくり上げ、三井、三菱、住友とともに四大財閥の一角を形成した創業者として知られています。
『大富豪になる方法』(幸福の科学出版)によると、安田善次郎は、江戸末期に富山藩の下級武士の子として生まれました。
幼少時、天下を獲った豊臣秀吉の伝記『太閤記』を読んで発奮し、将来は「1,000両のお金持ち」になることを志しました。
現代っ子が「億万長者に、オレはなる!」と決意するようなものです。
奉公人として江戸に出たあと、玩具屋、鰹節屋兼両替商に勤務し、25歳で独立。
日本橋の人形町通りに「間口二間、奥行五間半(3.6m×9.9m)」の家を借りて商売を始めます。
そのとき、小僧とお雇い婆さんを使って一生懸命に稼いだが、生活費は店の収益の一〇分の一を超えないという規定を立ててやり通した。
参照:『大富豪になる方法』30ページ
「生活費は店の収益の一〇分の一を超えない」というのは、かなりの倹約です。
こうした姿勢がのちに、現代の貨幣価値で言えば、10兆円もの資産を築くきっかけとなりました。
ちなみに東京大学の象徴として知られている安田講堂は、安田善次郎の寄付によるものです。
「名声を得るために寄付をするのではなく、陰徳でなくてはならない」として安田善次郎が生前、匿名を条件に寄付しました。
※参照:ウィキペディア「安田善次郎」
商才に恵まれた安田善次郎は、目標に掲げた「1,000両のお金持ち」を達成したばかりでなく、さらに資産を上積みします。
だんだんと信用を得て店も繁盛するようになり、二〇〇〇両近くの資産をつくり上げた。そのときのことである。近所に二間半で土蔵付きの家があり、それを四三〇両で売りたいという者があった。その頃、自分の店は過分の繁盛で、今までの家ではどうしても狭く、その上少々の金も残している。
そこでこの家を買いたくて仕方がないと思ったが、そのときじっとこらえたのは「収入の一〇分の一を過ぎる生活はしまい」という規定があったからだ。
参照:『大富豪になる方法』32ページ
2,000両もの資産を築き、店自体も繁盛して手狭になりました。
そこへタイミングよく430両で買える物件が現れました。
あなたが安田善次郎の立場なら、どうされますか。
私だったら、商売を広げる絶好のチャンスとばかりに迷わず買うでしょう。
しかし安田善次郎は「買いたくて仕方がないと思ったが、そのときじっとこらえた」というのです。
なぜなら「収入の一〇分の一を過ぎる生活はしまい」と心に決めていたからです。
私はいま、マンションにエアコンを付けたいと考えています。
北海道とはいえ、夏は夜でも30度を超す暑さに苦しめられるため、マンション管理会社に許可を取ってエアコンを取り付けることを検討しました。
エアコン取付業者に見積もりに来てもらったところ、既存の換気口を使うため、取付には3万円近くかかるとのこと。
省エネで室外機が静音タイプのエアコンを購入するとなると、取付費用込みで10万円はかかります。
さらに管理会社には、退去時に壁に穴を開けた場合の原状回復を求められました。
10万円は払えない金額ではありませんが、いつまで住み続けるか分からないワンルームマンションにエアコンを設置するべきか迷います。
結局、安田善次郎を見習い、今回は窓用エアコンで我慢することにしました。
壁掛けのエアコンに比べ、費用は半分以下で済みます。
「支出は収入の一〇分の八以上に出てはならない」を、ささやかながら実践しました。
さて、裕福になった安田善次郎は、妻をもらうように人から勧められます。
けれども身分相応の倹約を心がけてきた安田善次郎のもとに、浪費家の妻がきたのでは蓄財は困難です。
もし妻をもらうことになれば私と同じ精神の女でなければならない。
いくら私が非常な決心をしていたとしても、妻が私の精神と異なった心を持っていれば、私の目的を達することができない。
そこで、その人に三カ条の条件を出した。
参照:『大富豪になる方法』46~47ページ
安田善次郎が妻をめとるに当たって挙げた三カ条の条件とはつぎのようなものです。
- お客様を大切にする女でなければならない。
- 偉そうに長火鉢の向こうに座っているような女では困る。雇い女のつもりで一生懸命働いてくれる女でなければもらない。
- 当分木綿服しか着ないこと。
贅沢をするような妻は要らない、と言ったことになります。
木綿服、すなわち粗衣でも我慢できる女なら妻にもらうと条件を出しました。
結婚の条件として、安田善次郎が挙げた「私と同じ精神の女でなければならない」という条件は、富裕層を目指す私たちも意識したいものです。
私には公務員の弟がいますが、いつもお金が足りないと言っています。
公務員なので、給与は悪くありません。
中小企業のサラリーマンである兄よりも、はるかに多い金額を得ています。
それでも、金欠状態は深刻です。
それなのに、子供服やカバンにブランド品を選んだりしています。
こういった金銭感覚は、奥さんも一致しているようです。
弟はある意味、「同じ精神の女」と結婚したことになります。
「支出は収入の一〇分の八以上に出てはならない」という安田善次郎の教えさえ守れば、だれでも重度の金欠状態からすぐに抜け出せます。
ところが、いったん染み付いた金銭感覚は、容易には改善できないようです。
支出は収入の一〇分の八まで
安田善次郎は、収入の二割を貯金すれば、不意の災難にも耐えられると説きます。
実際に不意の災難に備えて、安田善次郎は「収入の八分で生計を立てて、二分は必ず非常事変の準備として貯蓄した」「収入の八分以上は一文でも使わずに、ことごとく貯蓄した」というのです。
だんだんと給料が増してきて一〇両もらうことになっても、または店を開いて一〇〇両や二〇〇両の儲けを見るようになったときでも、八分の分度は堅く守った。
参照:『大富豪になる方法』56ページ
私たちは、例えば冠婚葬祭などで臨時の出費が発生することは避けられません。
その場合、安田善次郎はどうしたでしょうか。
しかし時として、利益の二割を引き去ることがどうしてもできない場合が度々あった。
たとえば、来月は盆だから浴衣の一枚も買いたいとか、正月だから羽織の一つもこしらえたいとか、いろいろな臨時費の支出が起こる。
けれども、どんなにやむを得ない臨時費の支出を要求する場合でも、まず二割を差し引いた後でなければ使わないようにした。
時にはまた儲けがほとんどなくて、利益の二割を差し引くと、臨時支出がなくても非常費の予算が立てられない急場もあった。
たとえそのときでも、私は断固として二割を差し引いて貯金箱に入れた。
三度のご飯のおかずが、たくわんや粗肴(そこう)でもかまわない。
このようなときには一滴の酒も飲まずにしのいでもって、予算は決して狂わせなかった。
参照:『大富豪になる方法』58ページ
安田善次郎は、臨時の支出があったとしても、ほかの出費を抑えて何とか二割の貯蓄を確保したようです。
例えば、昼はたとえ130円のカップラーメンだけで済ませたとしても、収入の二割は必ず貯蓄に回すようにしたということになります。
貯蓄を妨げる行動とは
貯蓄を妨げる行動とは、浪費にほかなりません。
月末の給与が入るとすぐに散財してしまう、ボーナスが入れば大盤振る舞いしてしまう――そんな人はいませんか。
これでは、貯蓄ができません。
月末になって月給を取るとか、あるいは賞与金をもらえば、後も前も考えずに、身分不相応の贅沢をやってみたり、流行を追っていらない品物を買ったりするから、困ることになる。
参照:『大富豪になる方法』71ページ
たとえば、流行を追って衣類や持ち物が欲しくなり、不必要な物まで買って余計な見栄をはろうとする。
このような人は情欲に打ち克つことのできない人で、予算外の支出もかさみ、貯蓄どころではない。
参照:『大富豪になる方法』77ページ
安田善次郎が亡くなって100年近く経つのに、「流行を追って衣類や持ち物が欲しくなり、不必要な物まで買って余計な見栄を張ろうとする」という指摘は、そのまま現代でも通用します。
まとめ
人生を豊かにする蓄財法とは、「支出は収入の一〇分の八以上に出てはならない」というシンプルな法則です。
たとえ自己投資という大義名分があったとしても、そのための支出は「収入の一〇分の八以上」となってはいけません。
臨時の出費がかさむことがあっても、なるべく支出は「収入の一〇分の八以内」に収めるのです。
安易にクレジットカードや消費者金融に頼ってはなりません。
重たい借金だけを増やす羽目に陥ります。
私にとっても耳の痛い言葉ですが、「流行を追っていらない品物を買ったりする」ことは控えたいものです。
富を蓄えたいなら、シンプルな蓄財法「支出は収入の一〇分の八以上に出てはならない」を実践できる者になりましょう。
最後に、安田善次郎の言葉を引用して締めくくります。
一ヵ月で余るのが五〇銭でも七〇銭でも、決して失望することはない。
五〇銭ずつ一年間辛抱したところでわずかに六円、五年辛抱したところで三〇円だが、ここで失望してはならない。
たとえ額は僅少であっても、それに対する無形の結果は、貯蓄の多寡に関せず甚大なるものと思わなくてはならない。
すなわち、世間の信用と、自分の安心である。
(略)
もし十分に世間より信じられ、また自分も心中何の不安もなく、煩悶もなく暮らすことができれば、たとえ身は裏長屋住宅でも、その人は人生の成功者として差し支えはあるまい。
参照:『大富豪になる方法』68~69ページ