はじめに
道徳的に「相手の身になって考える」ことは悪いことではありません。
「相手の立場になって考えることは大切ですよ」と書いてあれば、だれもが「確かに大切だ」と認めてくれるでしょう。
では「相手の立場になって考える」とは、一体どのようなことでしょうか。
私は「相手のメリットを優先すること」だと考えます。
あなたは、「相手のメリットって何?」と疑問が湧くかもしれません。
実は筆者である私にも分かりかねます。
「相手のメリット」とは、その都度、状況に合わせて判断する必要があると考えます。
「これが相手のメリットだ」と言える唯一の「正解」は、当然ですが、ありません。
本サイトの記事では「相手のメリット」を考える意義についてお伝えします。
以前に記事でコミュニケーションの究極の目的は「人を動かすこと」と書きました。
ロングセラー本の『人を動かす』(D・カーネギー著、創元社)には、「人を動かす三原則」が記されています。
その三番目の原則が「相手の立場に身を置いて考え、相手の心に強い欲求を起こさせる」です。
「相手の立場に身を置いて考える」をもう少しかみ砕いて言えば、「相手のメリットを考える」とも言い換えられます。
「相手のメリット」を優先させる習慣が身に付けば、他人はあなたが望むように動いてくれそうです。
残念ながら「自分のメリット」だけを真っ先に考えるなら、相手はあなたの言うことに耳を貸してくれないでしょう。
「相手のメリットは何か?」と考えるクセがつけば、不思議と「相手のメリット」が見えてくるものです。
「相手のメリット」を優先させるような行動をとるなら、他人は喜んであなたのために動いてくれるでしょう。
そうなれば、回りまわってあなたにも良い事が返ってきます。
1.相手にしてあげられることは何か
1961年1月20日に当時43歳のジョン・F・ケネディは、米国第35代大統領就任演説で名言を残しています。
特に注目したいのは「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」というフレーズです。
「国」という言葉は、「会社」「恋人」「家族」「隣人」「友人」「同僚」などの言葉にも置き換えられます。
汎用性の高いフレーズです。
思わずハッとさせられるほど含蓄に富んでいます。
コミュニケーションをとる場合も、つぎのように言い聞かせるべきです。
「相手が私のために何をしてくれるかではなく、私が相手のために何ができるかを考えよう」と。
まず相手のメリットを考えるようにすれば、不思議と物事が思い描いていたように進みます。
GIVE&TAKE
アマゾン「ビジネス書大賞2015」にノミネートされた『GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代』(アダム・グラント著、三笠書房)には、「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の三種類の人々が出てきます。
- ギバー(与える人)=受け取る以上に与えようとする人。他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払う。
- テイカー(受け取る人)=常に与えるより多くを受け取ろうとする人。自分中心。
- マッチャー(バランスをとる人)=与えることと受け取ることのバランスをとろうとする人。与えすぎて損しないよう、ギブとテイクを五分五分に保つ。
ペンシルバニア大学教授のアダム・グラントは、成功からほど遠い位置にいるのは割を食うギバーであると説明しています。
それは自分の成功を犠牲にして、相手の利益を優先しているからだと言います。
「ギバーはテイカーに比べて収入が平均14パーセント低く、犯罪の被害者になるリスクは二倍、人への影響力も22パーセント劣る」「一番生産性の低いエンジニアはほとんどがギバーである」と指摘しています。
つまり、(お人好しの)ギバーが搾取の対象になりやすいことを指摘しています。
ところが「もっとも生産性の高いエンジニアも、やはりギバーだった」「業績の質・量ともに最高点を獲得したのは、 受け取るよりも多くを同僚に与える人々なのである」と驚きの事実を伝えています。
その結果「もっとも成功する人ともっとも成功しない人がギバーである」「ギバーは成功への階段の一番下だけでなく、一番上も占めているのだ」と指摘しています。
ギバーにも「人に利用されるバカなお人よし」と「最高の勝利者」の二種類がいるということです。
成功したギバーとして登場するファイナンシャルアドバイザーのピーター・オデットはこう言います。
「事業で成功できたのは、いつも人の役に立ちたいとしているおかげでしょうか。これこそ私のお気に入りの武器なのです」。
『GIVE&TAKE』には「相手のメリットは何か?」を考えて行動する、こうした成功者のギバーが紹介されています。
「相手のメリット」を優先した体験談
学生時代の友人
学生時代は大学寮に入っていました。
酒とエロが渦巻く精神的に不衛生な環境です。
あるとき同じフロアの、友達がいなさそうな寮生と話を交わすようになりました。
彼は「この大学の学生はバカばかりだ」と毒づいています。
ストイックなまでに自分を学業に追い込むタイプでした。
私は孤独な彼をサークルに誘おうと決心しました。
いきなり誘っても断られる可能性があります。
聞けば彼は筋トレのために、体育館に通っているということでした。
そこで「友達が少ない彼と一緒に筋トレに付き合ってあげたら喜んでもらえるのでは」と考え、一緒に体育館に行きました。
ドンピシャだったようです。
心を開いてくれた彼はその後、私が勧誘したサークルに嬉々として加わってくれました。
会社の同僚
医療用具メーカーに勤めていたとき、会社の先輩は私を宗教の集会に誘いました。
話題としてタブーとされる宗教ですので、即座に断ることもできました。
それでも一度だけ集会に参加すると、先輩は嬉しそうでした。
退職すれば会社の人間関係も切れるのが普通です。
退職して十年以上が経ちました。その先輩とはまだ、年賀状のやりとりを続けています。
会社を離れても人間関係が続いているのは、私が先輩の誘いに乗ったからだと思います。
業界新聞の記者時代の同僚
記者時代は、同僚がよく飲みに行きたがりました。
私は酒が飲めません。行けば割り勘です。
飲まない私の方が、多く払うことになります。
本来は、割に会わないことです。
それでも、ストレス発散のために酒を飲もうとする同僚に付き合うことにしました。
何度か居酒屋で愚痴やら不満やらを話し合ったように記憶しています。
後日、異動で職場が別々になったあとも、その同僚にはいろいろと助けてもらいました。
私に対する一種の恩返しかもしれません。
友を得るには、どうしたらいいか
私の経験上、「相手のメリット」を優先すると友達ができます。
あらためてD・カーネギーの著書『人を動かす』の原題を思い起こしてみてください。
「HOW TO WIN FRIENDS AND INFLUENCE PEOPLE」です。「WIN FRIENDS」とは「友達を得る」といった意味です。「相手のメリット」を優先させるように意識すれば、「友達を得る」は実現します。
営業にも通用する
「相手のメリット」を考えることがもっとも求められるのは、営業の仕事です。
営業で相手から契約をもらおうとすれば、先に相手が欲しい物を提供する必要があります。
私も営業マン時代は気持ちよく契約していただけるように、先方にはせっせと情報提供したものです。すると大体スムーズに事が運びます。
ギブ&ギブ&ギブが王道
「ギブ&テイクなら知ってるよ」と言われるかもしれませんが、「ギブ&テイク」はマッチャーの手法です。
ギバーなら感覚として「ギブギブギブ」をするくらいが喜ばれます。
「ギブギブギブ」の結果「ギブン(与えられる)」があります。
マーケティングコンサルタントで、ベストセラー書籍累計一千万部を売り上げた長倉顕太氏はKindle書籍『ギブギブギブが現実化する』の中でこう書いています。
テイク優先で考えてる人は損得勘定で生きるから、与えてもらう以上のことをやらない。
そうすると、自ら能力を限定することになる。(中略)間違いなく成長なんかできない。
でも、ギブギブギブは、自分の世界じゃないところまで連れていってもらえる可能性がある。
損してまでやるわけだから、自分の世界の外へ行けるんだ。
つまり自分の世界が広がる。
さらに、ギブギブギブできる人は、他人に違う世界に連れていってもらえる。
当たり前だよね。当然、ギブギブギブできる人は可愛がられるから。
テイカーは損得勘定で動くので、周りからの応援も得られないのでしょう。
ところが「ギブギブギブ」を心掛ける人は、周りから応援されるようになります。
周りがギバーのために動いてくれるからです。
2.まとめ
「相手のメリット」を第一に考えるなら、友達ができます。
テイカーのように「自分のメリット」だけを優先させるなら、思うように物事は進まないでしょう。
「相手のメリットは何か?」を意識するなら、「相手のメリット」が見抜けるようになるはずです。
「相手のメリット」につながる行動を起こせば、他人があなたのために働いてくれる確率は間違いなく高まります。
長倉氏によると自分の世界までも広がります。
コミュニケーションをとるときは「相手のメリット」を優先して考えたいものです。
きっと、人間関係を豊かにしてくれるような見返りがあります。
※カーネギーの「人を動かす」一番目と二番目の原則については、関連記事をご参照ください。
同胞であるアメリカ市民の皆さん、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか。
また同胞である世界市民の皆さん、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを考えようではありませんか。