「傾聴(けいちょう)」の意味を明鏡国語辞典(大修館書店)で調べました。
「耳を傾けて、熱心に聴くこと」とあります。
そのものズバリの分かりやすい説明です。
「熱心に」という形容動詞がポイントです。
地方紙の記事に北海道メンタル評議会理事長、東館麻知子さんの発言が載っていました。
傾聴で大切なのは、一生懸命聴いているという姿勢を無言で相手に伝えること
大切なのは、聞き手が「一生懸命に聴いていますよ」という姿勢を無言でアピールすることです。
旦那が嫁に向かって「オレはちゃんと話を聞いてるよ!」と声を荒らげるのは、本当の意味での傾聴ではありません。
本サイトの記事では、東館さんの発言を通して「傾聴」の大切さを考えます。
あなたは熱心に聴く必要性を理解し、深いコミュニケーションを図れるようになるでしょう。
1. 一生懸命に聴く
私たちはだれかに話を一生懸命聴いてもらえると、うれしくなります。
承認欲求が満たされて、自尊心が高まります。
ですからおざなりでなく、人の話は常に一生懸命聴くようにしたいものです。
大学時代、おっとりしたサークル仲間の女子学生と学生会館などでよく話していました。
私は得意げに自説を論じます。
「有益な話を聞かせてやっている」と、うぬぼれていました。
とんでもない勘違いです。
話しやすい雰囲気をつくってくれたのは彼女の方でした。
私の話力ではなく彼女の傾聴の姿勢が、私を雄弁にさせていたのです。
風の便りで彼女の結婚を知ったとき、そう痛感しました。
実は彼女からあだ名で「モリリン」と呼ばれていました。
おちょくられたようなあだ名です。
でも彼女の聴く姿勢には、敬意が込められていたとあとで気が付きました。
彼女ほど話しやすい雰囲気をつくってくれた人は、いまだにいません。
1-1真剣かどうかは話し手が判断する
先に紹介した北海道メンタル評議会理事長、東館さんの言葉をあらためて引用します。
着目したいのは、「真剣に聴いているかの判断は、話し手が判断すること。聴き手が評価することではない」という言葉です。
旦那が「オレは話をちゃんと聞いてるよ!」と言っても、判断するのは嫁の方です。
「聴き手」の旦那が評価することではありません。
1-2「分かりません」と答えるのはNG
私がたびたび登場させる相性の悪かった女性事務員は、私が質問すると「分かりません」とよく答えていました。
「分かりません」と答えられると、会話が盛り上がりません。
お買い得品を手にして喜んでいるのに、彼女から水を差されたような気分になります。
せめて「5千円くらい?」などと答えてくれれば、私も喜色満面で「実は1万円もするんだよ!」と自慢できたでしょう。
会話も弾んだに違いありません。
こんな会話もありました。
よっぽど「切った方がいいですよ」と言おうかと思ったよ。
女性の立場なら、鼻毛が出ている男と出ていない男では、どちらに好感が持てる?
私は当然「鼻毛の出ていない男の方が好感が持てるに決まっているでしょ!」との答えが返ってくるものと思っていました。
ところが、そうではありませんでした。
うちの父親も鼻毛が出ています。(会話終了)
私が絶句したのは言うまでもありません。
「分かりません」と言われて、「私の美的感覚がおかしかったのかな」と自信を失いかけました。
振り返れば、事務員の「分かりません」という言葉には、言外に「あなたの話には興味がありません。会話もしたくありません」と言っているように聞こえます。
事実、そうだったのでしょう。
ただし、単純に知識を問う質問に対しては「分かりません」と答えても問題ありません。
「日本で二番目に高い山はどこか?」と聞かれても、知らなければ「分かりません」と答えるしかありません。
※二番目に高い山は、山梨県の北岳(標高3,193m)です。
仕事を辞めてもらおうと思ったとき、彼女が一生懸命にコミュニケーションをとってきたと言い張ったことがあります。
本当でしょうか。
一生懸命に聴いてくれたかどうかの判断は、話し手の私が判断することであって、聴き手の事務員が評価することではありません。
1-3聴く姿勢があったのはどちら?
記者時代、役所の職員に必要な情報をよくもらいに行きました。
忙しいタイミングだったのかもしれませんが、ある担当職員はパソコン画面をのぞき込んだまま顔をこちらに向けることなく、作業を続けます。
あまりよい印象を持ちませんでした。
一方、別の職員は私が行くと作業の手を止めて顔をこちらに向けてくれました。
わざわざ立ち上がって丸椅子に座るよう勧めてくれたこともあります。
一生懸命に聴こうとする姿勢を無言でアピールしてくれたのは、どちらの職員だと思いますか。
こんな分かり切ったことでも、例の事務員なら「分かりません」と答えるかもしれません。
1-4私の体験談
人口4千人に満たない北海道南部の町に、ある建設会社があります。
訪問すると社長室に通されます。
相手は百戦錬磨の経営者です。
経営について素人のサラリーマンが、話し相手になるはずもありません。
私ができることは「一生懸命聴いているという姿勢を無言で相手に伝えること」くらいです。
例えば社長が関心を寄せている中華人民共和国の話を始めたら、突っ込んで質問するようにします。
身を乗り出し、社長の一言一句を聞き漏らさないよう集中力を研ぎ澄ませます。
気付けば1時間半が過ぎていました。
もちろん時計は、対話中ではなく会社を出たあとに確認します。
相手が話している最中に時計を見るのはご法度です。
私が「早く終わらないかな」と時間を気にしているように受け取られる恐れがあるからです。
これは相手に対して失礼に当たります。
ときに私は、トンチンカンな質問を投げかけたことがあります。
それでも会話が続いたので、大切なのは話す内容よりも聴く姿勢だと言えます。
私が転勤するとき、「うちは小さい会社だが餞別くらいは出せるぞ」と言って社長が過分なお餞別をくださったのは忘れられません。
2.まとめ
「傾聴で大切なのは、一生懸命聴いているという姿勢を無言で相手に伝えること」。
つまり「耳を傾けて、熱心に聴くこと」です。
相手を尊重し、思いやることが欠かせません。
うなずいたり感情移入したりして、相手が話しやすい雰囲気をつくりましょう。
話し手は、あなたが真剣に聴いているかどうかを見抜きます。
真剣に聴いていることが伝われば、深いコミュニケーションに発展するでしょう。
傾聴で大切なのは、一生懸命聴いているという姿勢を無言で相手に伝えること。
相手を尊重し、思いやる心が基本。
あいづちやうなずきの仕方で、相手の話し方も違ってくる。
真剣に聴いているかどうかの判断は、話し手が判断すること。
聴き手が評価することではない。