実家に古稀を迎えようとする両親がいます。
安否確認の意味も込めて、20時過ぎに電話をかけました。
大体、電話に出るのは母親ですが、不在だったらしく父親が出ました。
父親と会話をするのは、2ヵ月ぶりになるでしょうか。
少し面倒くさそうな雰囲気です。
父親は20時を過ぎると、ビールの酔いも回って眠くなってくる頃です。
2ヵ月ぶりの会話なのに、わずか10秒で終わりそうになりました。
私はあわてて、父の日を控えていることもあり、何が欲しいかを尋ねました。
そう言って電話を切りました。
私の父との会話は、こんなものです。
母親に電話をしたときは30分でも40分でも話が続くのですが、どうも父親との会話は必要最小限で終わります。
思わず、ツイッターにもつぶやいてしまいました。
実家に電話したら父親が出た。「何か変わったことないかい?」と聞くと「何も変わったことないよ」。10秒で会話が終了。「父の日に何が欲しい?」と尋ねたら「うなぎ」と返事。楽天スーパーセール中だったので半額のうなぎを発見。それにしても父親と息子の会話の少なさよ。https://t.co/DIlngUxnGG
— Communication Skills Labo (@hau77800) June 4, 2019
父と子だからという理由で、大して言葉を交わさなくても「暗黙の了解」的に分かり合えているつもりになっていますが、本来これは恐ろしいことです。
実は何も分かり合えていません。
本当は、私が質問力を発揮して、父親に日常のことを聞けばいいのですが、親子という関係性に甘えてしまい、聞きそびれました。
何も分かり合えていないことを前提に、聞き出すことがなければ、真の意思疎通など図れません。
親子関係だけでなく、友人関係や恋愛関係にも当てはまるでしょう。
真の意思疎通を図るには、相手に焦点を当てて、質問をしてあげることが欠かせません。
相手のことをもっと知ろうとして深掘りすることが必要です。
そうすれば、会話が盛り上がります。
相手に焦点を当てる
以前、「コミュニケーション能力を磨けば、口下手でも好かれる営業マン」という記事でも載せましたが、大事なことなので、再度ある本の内容を紹介します。
やや古い本ですが、私が引用する部分は普遍的な価値を含んでいます。
題名は『プルデンシャル生命トップ営業7人のノウハウ プロは「売り方」が違う!』(あさ出版、2003年刊)。
営業で最高位を極めたエグゼクティブ・ライフプランナーの記事が載っています。
このエグゼクティブ・ライフプランナーの清水克也氏と奥様のやりとりの中に、重大なヒントが隠されていました。
タイトルは「妻相手のロールプレイで学んだ、一言ひとことの大切さ」。
前職で営業経験の少ない私は、夜自宅に戻ってからも、妻を相手によくロールプレイをした。
お客様役になって相手をしてくれた妻から気づかされたこともたくさんあった。
例えばこんなふうだ――
私「奥様は今までに入院されたことはありますか?」。
妻「いいえ、ありません」。
私「そうですか。実は私もないんですよ」。
そこで妻からストップが入った。
「それって、変だよ」と言う妻に対し、
私が「何で? 親近感がわくじゃないか」と言い返す。
「あなたが入院したことがあろうがなかろうが、
私にはどうでもいいことなの。
それよりどうして私に焦点を当てないの?
例えば
『健康でいらっしゃるんですね』
『何かスポーツでもやっていらっしゃるんですか?』とか、
私のことを聞いてよ!」。
言われてみれば、まさにその通りであった。
「お子さんは何人いらっしゃるんですか?」と聞いて、
お客様が「男の子が二人なんです」と答えても、
決して「うちは女の子が二人でして」と返してはいけない。
自分のことを話したくなるのをグッとこらえて、
「にぎやかですね」とか「ケンカしたりしますか?」など、
相手に焦点を当てて、どんどんしゃべっていただく。
「清水さんのお家は?」と聞かれたら、その時答えればよいのである。
また、「大変ですね」という言葉には注意が必要である。
以前お客様に、会話の流れでこの言葉を使ったとたん、
「私は大変ではないよ」ときつく言い返されたことがあり、
以来使わないように気をつけている。
ネガティブな印象をお客様に与えてしまう言葉なのである。
あるとき、双子を身ごもられた奥様と話をした。
双子だと聞いて思わず「大変ですね」と言いそうになったが、
とっさに「たっ、楽しみですね」と返すと、
にっこり笑って、
「そうなの、楽しみなの。
わかってもらえてうれしいわ。
みんな、大変ですねって言うけど、
私は楽しみなのよ」とおっしゃった。
質問して相手から答えが返ってくると、つい自分の身の上話も話したくなりますが、相手にとってはまったく興味のないことです。
自分のことを話すより、まず相手に焦点を当てましょう。
親近感がわくと思って自分をさらけ出すより、相手の話を深掘りする方が、よほど大切です。
実家の父親の話
私の実家は、よく人を招いて食事を一緒にしました。
母親も、人をもてなすのが好きだったのでしょう。
心づくしの手料理をふるまっていました。
あるとき、旭川医大の学生だった知人が、父親と飲み交わしたことがあります。
製薬会社に勤めていたこともある父は、酔いに任せて医療業界の闇を指摘しまくります。
青二才の若造よりも、自分の方が詳しいとでも言いたげでした。
研修医としてまもなく働くことになる知人は、父からビールをつがれながらも、神妙に話を聞いています。
饒舌に語る父の姿に違和感を覚えたほどでした。
普段父親が、熱く話している姿を見ることはなかったからです。
また、別の知人が来たとき、これも酔っぱらって気持ちよくなった父親が、営業職について話すのを耳にしました。
いかに営業で成果を上げたかを得意げに語っています。
これも初めて聞く話でした。
しかも息子にではなく、知人に対して口角泡を飛ばしながら話しています。
息子の私は、父親が興奮してしゃべる姿に驚いたものです。
息子の私ですら、初めて聞く武勇伝でしたから。
こんな思い出があるため、父親は話したいことがあっても胸に秘めているだけでないかと勘繰ってしまいます。
それでも電話をすれば、相変わらず「特に変わったことはないよ」と告げられて、ものの10秒も経たないうちに会話が終了するに違いありません。
だからか、私は父親世代の男性と話をするときは、とにかく聞き役に徹します。
自分の話は置いておいて、相手が話したいと思うようなことを聞き出します。
相手に焦点を当てて、どんどんしゃべっていただくのです。
そうすれば、会話が盛り上がります。
「よくぞ聞いてくれた」とばかりに、相手は身を乗り出してしゃべり続けます。
家族にも話したことがないようなことを、平気で打ち明けてくれます。
人に好かれる6原則
聞き手にまわる
『人を動かす』(創元社)の著書の中でD・カーネギーは「人に好かれる6原則」を説いています。
そのうちの一つが「聞き手にまわる」です。
カーネギーは無類の「聞き上手」です。
こんなエピソードが載っていました。
カーネギーにヨーロッパ旅行の話をしてくれと頼んだある女性がいました。
ところが気付けば、夫と旅したアフリカ旅行の話をたっぷり45分間カーネギーに話してしまったようです。
彼女は、たっぷり四十五分間、アフリカの話を聞かせてくれた。わたしの旅行談を聞かせてくれとは、二度といわなかった。彼女が望んでいたのは、自分の話に耳をかたむけてくれ、自我を満足させてくれる熱心な聞き手だったのである。
D・カーネギー著『人を動かす』(創元社)より
このほか、カーネギーはある晩餐会で有名な植物学者と話し込んだ経験を紹介しています。
植物学者はカーネギーと何時間も語り合ったあと、晩餐会の主催者に向かってカーネギーが「世にも珍しい話し上手」と評価したそうです。
その評価についてカーネギーは、率直に驚きを表しています。
話し上手とは、おどろいた。あの時、わたしは、ほとんど何もしゃべらなかったのである。しゃべろうにも、植物学に関しては全くの無知で、話題を変えでもしないかぎり、わたしには話す材料がなかったのだ。
もっとも、しゃべる代りに、聞くことだけは、たしかに一心になって聞いた。心から面白いと思って聞いていた。それが、相手にわかったのだ。したがって、相手は嬉しくなったのである。こういう聞き方は、わたしたちがだれにでも与えることのできる最高の讃辞なのである。
(中略)
話し上手になりたければ、聞き上手になることだ。興味を持たせるためには、まず、こちらが興味を持たねばならない。相手が喜んで答えるような質問をすることだ。相手自身のことや、得意にしていることを話させるように仕向けるのだ。
D・カーネギー著『人を動かす』(創元社)より
関心のありかを見抜く
カーネギーはさらに、第五章「関心のありかを見抜く」でアメリカ合衆国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの逸話を紹介し、「人の心をとらえる近道は、相手が最も深い関心を持っている問題を話題にすること」と結論付けています。
この辺りの内容は、中田敦彦氏がYouTube動画で分かりやすく解説してくれています。頭にインプットされるので、必見です。
カーネギーは続く第六章「こころからほめる」で、英国の政治家ベンジャミン・ディズレーリの言葉を紹介しています。
私も完全同意です。
「人と話をする時は、その人自身のことを話題にせよ。そうすれば、相手は何時間でもこちらの話を聞いてくれる」
まとめ
話が脱線しましたが、結論はつぎのとおり。
相手のことを知ろうとして熱心な聞き役に徹することができれば、会話が盛り上がる。あるいは自分の意見はいったん脇に置いて、相手が喜ぶ話題を進んで掘り下げるなら、会話は盛り上がる。
これは、D・カーネギーの体験談を待つまでもなく、私の実感として間違いがないことを確信しています。