あなたは「イエス・バット法」(応酬話法)について、どんなものか一度は聞いたことがあるはずです。
相手の言うことをいったんは肯定して受け止めてから、「けれども」「しかし」などと逆接の接続詞を使って相手の意見に反論を述べるスキルを言います。
営業に携わる人なら、この代表的な応酬話法を効果的に使う必要があります。
「イエス・バット法」を使うときに大事なポイントは、可能な限り相手の発言に「イエス」と肯定することです。
反論の芽を摘み取ってから初めて「バット」論を展開しましょう。
そうすれば、相手はあなたの意見に同意せざるを得なくなります。
本サイトでは、加賀田セールス学校学長の加賀田晃氏が説く「イエス・バット法」を紹介します。
あなたは「イエス・バット法」の正しい使い方を理解できるようになります。
1.すぐに「バット」に移ってはいけない
加賀田氏は言います。
私が、イエス・バット法を延々説明しても、実践トレーニングに移ると、「そうですよね、でもッ」と表面上のイエスだけで、すぐに慣れたバットに移ろうとする。
何故、バットを急ぐのだッ !!
“イエス”というのは、心から相手のもっともな部分に共鳴の言葉を述べる。
これが、本当の“イエスッ ! ”だ。
加賀田氏は、「何故、バットを急ぐのだッ !! 」と声を張り上げます。
バットを急いではなりません。
例えば、車を販売するトヨタの営業マンが客を訪問したとします。
でもやっぱり、新型クラウンにはかないませんよ。私どもの新型クラウンは…
軽は何といっても燃費が良く1リッター当たり25kmも走るから、私は軽が気に入っているんだ
新型クラウンの2.5Lハイブリッド車はJC08モードでリッター24km、WLTCモードでリッター20kmです。
WLTCモードは国連で定められた新しい燃費基準で、JC08モードより実燃費に近いんですよ。
新型クラウンの2WD車は、標準的なタイプで最小回転半径が5.3mと小型車並みです。クラウンなのに小回りが利きますよ。
7200円から1.5倍の10800円になっているんですよ。
新型クラウンにはエコカー減税があります。
2.5Lハイブリッド車の場合、2WDも4WDもエコカー減税を受けられます。
自動車取得税、重量税がゼロ円になるほか、自動車税も75%減となります。
税制面でもかなり優遇されています。
このように営業マンは客の言葉に対して反論を述べていますが、まるで売り言葉に買い言葉。
「ああ言えばこう言う」といった感じです。
客を感情的に納得させるのは難しいでしょう。
加賀田式の「イエス・バット法」を使えば、つぎのようになります。
新型クラウンには興味があるが、次も軽にしようと思う。
軽は、軽ならではの良さがありますよね。
何と言いましても税金が安い。
それに小回りが利いて、駐車面積もとらない。
さらにガソリンの燃費が大変いい。
失礼でございますが、〇〇様のお車は何㌔ぐらい伸びますか?
それでも燃費は良い方ですね。
実用性を考えたら、軽自動車は運転がラクで燃費も良く、おまけに税金も安い。
何も文句を言う必要がございませんね。(ここまでがイエス)
奥様やご家族の方がいらっしゃいます。
先日も、信号待ちの車にトラックが追突して、追突された方は亡くなりましたが、どんなに気をつけていても、〇〇様もご存知のように、どこから車が当たってくるか分からない時代です。
それをお考えいただきましたら、〇〇様はお一人の身体ではございませんので、もしものために、普通車の方がよろしいのではないかと思います。
ご興味がおありと言うなら新型クラウンも候補に挙げてみられてはいかがでしょうか。
クラウンはトップレベルの衝突安全性を追求しております。
それに軽自動車は、普通車に比べますと、ご本人が気付いていないようでも、かなり疲労いたします。
対して新型クラウンは、長時間のドライブでも快適に過ごせるシートを備えております。
近年は高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違い事故が増えていることも忘れてはなりません。
新型クラウンには自動ブレーキ装置やペダル踏み間違い時加速抑制装置など、最新のサポート機能が付いており安全です。
〇〇様の安全と健康のためには、軽よりクラウンの方が断然よろしいのではないかと思います。
と、〇〇様はお思いになりませんでしょうか?
加賀田氏は言います。
留意すべき点は、
①思いつくプラスの数だけ、口に出してイエスにする
②切返しの際に、同意を取る
この二つが特にポイントである。
さて、イエス・バットにしたら次はどうするか。
実は、イエス・バットより重大なのはこの後である。(中略)
相手から同意を取ったら、自分の意見を断定し、次の瞬間に
③チェンジ―話題を変える
相手から同意を取ったら、あなたもしっかり肯定してあげます。
その上で、話題を転換する必要があるということです。
例えば、以下のようになります。
〇〇様、ちょっとご覧ください。
〇〇様でしたらガソリンターボ車とハイブリッド車では、どちらの方がいいなぁ~と思われますでしょうか?
では色は、〇〇様でしたらシルバー系とブラック系のどちらの方がいいなぁ~と思われますでしょうか?
こちらのシルバーメタリックは私も好きです。
〇〇様、大変失礼ですがお支払いは現金とローン払い、どちらの方がいいなぁ~と思われますでしょうか?
〇〇様、ちなみに納車は、平日と土日のどちらの方がいいなぁ~と思われますでしょうか?
それでは〇〇様、恐れ入りますが、こちらの契約書にサインをお願いいたします。(と言って客にペンを握らせる)
加賀田氏は言います。
これが、一通りのイエス・バット法だ。
もう一度まとめると、
①相手の意見に対してイエス(同意)
②自分の意見を述べるバット
③それに対して同意を取る
④もう一度、自分の意見を断定
⑤別の話題にチェンジ
テストクロージングの注意点
もう一つ、注意しなければならないのはテストクロージングの方法です。
どちらがよいかを尋ねるときは、「どっちがいい?」と聞いてはなりません。
加賀田氏は言います。
丁寧語だと「どちらがいいですか?」ですね。
無論これでは不十分です。
模範解答は、「失礼ですが、〇〇様でしたらこのAタイプとBタイプ、どちらかといいますと、どちらのほうがいいなあ~と思われますでしょうか?」です。
どのような場面であれ、相手に何かを質問するときは必ず「失礼ですが」と前置きをするのが“加賀田式”の鉄則です。
この一言を忘れると、お客は「おまえにそんなことを聞かれる筋合いはない!」と反発を覚えます。
また、テストクロージングの場面で「どちらがいいですか?」と断定的に聞くのは厳禁です。
まだ買うとも買わないとも言っていないのに「どちらがいいですか?」と聞かれたら、こっちはまだその気になっとらん、とムカつきます。
テストクロージングで聞くのはあくまで相手の「思い」です。
どちらがいいかではなく、どちらがいいと「思う」かを聞く―。
そうすれば相手は抵抗なく「こっち」と答えてくれます。
購読を中止された体験談
以前勤務していた会社では、いわゆる業界紙を発行していました。
業界紙は購読料も一般紙の3~4倍します。高いのです。
あるとき、組合関係の購読者からこう言われました。
まずは相手の言い分に同意します。
「イエス」をしたのです。
でもそれからが問題でした。
一生懸命に反論を探そうとしたものの、なかなか「バット」が出てきません。
ついに時間切れとなりました。
「イエス・バット法」を使う前に、相手の言い分に打ち負かされてしまいました。
「値段が高い」というのは、よくある抵抗のパターンです。
相手が「高い」と感じているということは、商品に価格に見合った価値を感じていないということです。
ならば価値を伝えなければなりません。
価値を伝えるときに役立つのが「イエス・アンド法」(YES・AND)です。
「イエス」で受けたあと、「実は」「つまり」「ですので」などと続きます。
◇パターン1「イエス・アンド法」(YES・AND)
一般紙に比べたら高いかもしれません。
実は弊社は収益を企業スポンサーに頼っていないので、より中立・公正な立場で偏りのない情報を提供することができるのです。
その分、高いのです。
ただ情報社会において、ますます価値の高まる情報を遮断するのは組合活動にとってマイナスにしかならないと思います。と〇〇書記長さんはお思いになりませんか?
もしくは相手の意向を聞いてみるのも抵抗の切返しに役立ちます。
相手の意向を確認するのに使えるのが「イエス・ハウ法」(YES・HOW)と「イエス・イフ法」(YES・IF)です。
「イエス・ハウ法」では「どのような」「どうすれば」を使います。
「イエス・イフ法」は「もし~なら(例えば~なら)」と質問します。
「イエス・バット法」の「バット」がとっさに思い浮かばなければ、
●「イエス・ハウ法」
●「イエス・イフ法」を試すのも手です。
◇パターン2「イエス・ハウ法」(YES・HOW)
一般紙に比べたら高いかもしれません。
失礼ですが、〇〇書記長さん、どのような情報が載っていれば購読を続けたいと思われますか?
◇パターン3「イエス・イフ法」(YES・IF)
一般紙に比べたら高いかもしれません。
失礼ですが、〇〇書記長さん、もし購読料を3ヵ月分サービスするとしたら購読を続けたいと思われますか?
2.まとめ
「イエス・バット法」を使うときに大事なポイントは、すぐに否定から入るのではなく、まず相手の発言を認めることです。
「バット」を急いではなりません。
十分に相手の発言を肯定した上で、反論しましょう。
「バット」がとっさに思いつかない場合は、「イエス・アンド法」「イエス・ハウ法」「イエス・イフ法」を通じて相手の意向を聴くのも手です。
営業をしていると、応酬話法の必要な場面が必ず出てきます。
「イエス・バット法」などの応酬話法を身に付け、適切に対応できるようになりたいものです。
新型クラウンには興味があるが、次も軽にするつもりだ