ポールJ.マイヤーが開発したSMI能力開発プログラムの販売実績で世界一になった「(株)エレガンス東京」代表取締役の川本可奈子さんにお会いしたことがあります。
2007年頃のことだったと記憶しています。
川本さんの実家が経営する北海道内の温泉ホテルに泊まり、SMI関連のセミナーを受けました。
そこに川本さんがゲストとして登場したのです。
世界で頂点に立つくらいの営業ウーマンですから、どんなビッグな女性かと思いきや、意外にも小柄でした。
名刺交換をしたときは、パンパンに膨れた分厚いブランド物の名刺入れが目に入りました。
百人単位の人と名刺交換をしたに違いありません。
川本さんは私の顔をのぞきこむようにして言います。
「モタヨシさん、初めまして。髪をきっちりと分けて、誠実そうな雰囲気をお持ちなんですね」。
少し照れました。
初対面のあいさつで褒められたのは初めてだったからです。
確かに私は、髪型が七三分けスタイルです。
朝の身支度で洗髪したあとにドライヤーを使って乾かします。
そしてハードな整髪剤で髪を固めます。
このパターンは十数年変わっていません。
一番こだわっている部分を一瞬で見抜くとは、さすがです。
世界ナンバー1は、人の長所に対する観察力が優れていると感じました。
感じのいい人だと思いました。
もし川本さんから営業をかけられたら、すぐに陥落したに違いありません。
本サイトの記事では、営業においてネガティブな状況でも機転を利かせてポジティブな状況に転換する方法についてお伝えます。
結論を言えば、相手の長所を褒めるということです。
相手の長所を褒めると、どんな人からも感じのいい人だと思われるようになるでしょう。
1.相手の長所を見付けて褒める
川本さんの著書に『必ず成功する「本気」の営業 45のルール』(秀和システム)があります。
営業で成功する秘訣が45のルールとして記されています。
このうち17番目に「ポジティブマインドを育てる」というものがあります。
ポジティブマインドとは、ネガティブな状況をポジティブに変えるためのマインドを指します。
川本流に言えば「相手の長所を見極めること」と言えます。
本文を引用します。
たとえば、「時間がないんだよ」とイライラしている人がいるとします。
営業マンにとっては明白な赤信号です。
しかし、視点を変えてみれば、その人は忙しく、バリバリ仕事をしている人で、厳密な時間管理ができる優秀なビジネスマンかもしれません。
あるいは、頼られる存在なのかもしれません。
そんなとき、「〇〇さんって、ものすごくお忙しそうですけど、どんどん人に頼られちゃうタイプじゃないですか?」
と尋ねれば、
「実はそうなんですよ。それで忙しくなっちゃって……」と少しずつ心を開いてくれる可能性もあります。
後ろにふんぞり返っている人(たとえば経営者など)が相手だった場合には、
「〇〇さんは本当に堂々として、自信に満ちあふれていますが、そういう雰囲気は前から持っているものなんですか?」
などと話を振ってみると、
「いやいや経営者になってから少しずつ身についてくるものなんですよ」などと自分のことを話してくれるかもしれません。
このように、「どこが相手の長所なのか?」を見極め、伝えることは非常に効果的なアプローチです。
少しくらいネガティブに見えるところでも「どうしたらポジティブに変換できるか?」を考えれば、相手の信号を変えることも可能です。
あなたが営業マンなら、イライラ信号を発している人や、横柄な態度でふんぞり返っている人がいれば、「あっ、ヤバい」と直感的に察するに違いありません。
そんなネガティブな状況を変えるには、相手の長所を見極め、伝えることが有効だと川本さんは言います。
イライラ信号を発している人であっても「ものすごくお忙しそうですけど、どんどん人に頼られちゃうタイプじゃないですか?」と聞かれれば、まんざらでもないでしょう。
ふんぞり返っている人であっても「本当に堂々として、自信に満ちあふれていますが、そういう雰囲気は前から持っているものなんですか?」と聞かれれば、我に返って居住まいを正すかもしれません。
一見ネガティブな相手の様子を、ポジティブに解釈して「伝える」ことを川本さんは勧めています。
そうすれば、場の雰囲気が和らぐからです。
「営業の神様」と呼ばれた加賀田晃氏の場合
加賀田セールス学校学長の加賀田氏は、飛び込み営業のプロです。
個人宅を訪問すると、大抵は身構えられてしまいます。
あるいは敬遠されます。
大体はネガティブな状況から始まるのが飛び込み営業と言えます。
加賀田氏はそんな飛び込み営業で、ネガティブな状況をポジティブな状況に転換したエピソードを紹介しています。
学習教材を販売している時に、扉を開けようとしたら、なんと、ダンプカーに乗って奥さんが帰ってきた。
「お世話になっております、〇〇でございます」と自己紹介をしかけたら、威勢よく、“ケッコウ、ケッコウ”と手で追い払う仕草をされた。
まだ、家の外であるし、形勢はよくない。
すかさず奥の手。
「女の人でダンプカーの運転をしている人は大体、体格のいい男っぽい人が多いと思っていましたが、……失礼ですが、奥さんは本当にダンプの運転がお仕事でしょうか?…」
というと、中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)のその奥さんは、生娘(きむすめ)のように真ッ赤になって、
「イエ、ちょっと頼まれて運転してきたの……」と、下を向いてモジモジしだした。
「実は、今日はお子さんのお勉強のことで寄せて頂いたのですが、ちょっとお願いします」
と扉の方を指すと、可愛い声でハイと言って鍵を開け、二セット購入してくれた。
このエピソードのポイントは、手で追い払われる仕草をされたのに、加賀田氏が機転を利かせて奥さんのことを「女っぽい」と褒めていることです。
「女っぽい」とは一言も言っていません。
けれども間接的に「女っぽい」と褒めています。
間接的に褒めるとは、例えば身ぎれいな奥様が出てきたら「奥様、お綺麗ですね」と言うのではなく、「アラッ、あのう…、奥様、これからどこかへお出かけでございますか」などと言うことを指します。
加賀田氏は言います。
私は、自慢じゃないが、相手が奥さんであれ、ご主人であれ、社長であれ、逢ってから契約を取って帰るまでの間、長所を発見する度に間接的にびっくりして、誉めて誉めて誉めまくる。
「間接的にびっくりして褒める」から、相手は素直に喜ぶのです。
加賀田マジックとも言えるでしょう。
加賀田氏が、ネガティブな状況をポジティブに転換した例をもう一つ紹介します。
個人宅を訪問していたとき、奥から嫁の助っ人としておばあちゃんが出てきたそうです。
ネガティブな非常事態と言えます。
何のために出てくるかというと、邪魔をしにくる。
奥で聞いていたら、なんだかウチの嫁が営業マンに攻めたてられているようだから助けてやろうと思い、断るために出てくるんですね。
(中略)先手必勝、おばあちゃんが口を開く前にこう切り出しましょう。
「あらっ、おばあちゃん、いらしたんですか。おばあちゃん、お元気そうでございますね。失礼ですが、おいくつでございますか?」
これでもう、おばあちゃんは出てきた目的を瞬時に忘れます。
人間は質問されると反射的に「どう答えようか」と考え、そちらに気をとられてしまうからです。
おばあちゃんは十中八九こう答えます。
「いくつに見える?」
これを言わせることができたら、もうあなたの勝ちは決まったも同然です。
簡単に答えてはいけませんよ。おばあちゃんの顔や手の皮膚を見てうーんと唸り、
「そうですね、おばあちゃん、間違っていたらごめんなさいね」などと言って、答えると見せかけてはまた顔や手に視線を戻し……。
とにかくじらしにじらして、相手が耳をそばだて身を乗り出してきたら、はじめてそこで「うーん、ろ、ろ、六十一ッ!」と、思いっきり若く言ってあげましょう。
これはお世辞ではなくてリップサービス、十も二十も若く見積もってあげる。
おばあちゃんはビックリして、そんな若いわけないでしょうと言いながら、内心はとってもいい気分。
営業マンとの距離が一気に縮まります。
ネガティブな状況をとっさにポジティブな状況に転換した一例です。
「若く見られると喜ぶ」という女性の心理を突いています。
加賀田氏は「リップサービス」と言っていますが、少し老獪(ろうかい)さを感じさせます。
営業の修羅場をくぐり抜け、手練手管にたけた加賀田氏ならではのやり方でしょう。
常人にはあまりマネのできないことです。
でもピンチと思える状況も、チャンスに変える加賀田氏の機転には見習うべきものがあります。
誉め言葉をナチュラルに受け取ってもらうには
上述の川本さんは、相手の長所を褒めるに当たり「わざとらしい」「うさん臭い」と思われるかもしれないことを認めます。
その上でつぎのように言います。
でも、それを繰り返すことで「どうやって言えば相手は喜んでくれるのか」
「ナチュラルに受け取ってくれるのか」がわかってくるものです。もちろん「ただ売りたいから」という打算的な理由で、適当な褒め言葉を言っていては相手も不快に感じます。
でも「〇〇さんのこの部分は本当にステキ」「とても魅力的」と感じられるなら、たとえ不器用でも何かは相手に伝わります。
全体から見ればほんの一部分でも、相手のステキな部分を発見したなら、それを口に出して伝えることが大事だいうことです。
最初のうちは不器用な表現になるかもしれません。
それでも、だんだんと自然に伝えるコツが分かってきます。
言われた相手も、あなたの褒め言葉に「何か」を感じ取ってくれると川本さんは言います。
2.まとめ
営業でネガティブな状況に遭遇したら、「ポジティブマインド」を活用してポジティブな状況に転換させましょう。
ネガティブに見える部分を、ポジティブに解釈するのです。
ポジティブに解釈すれば、相手の長所が見付かるはずです。
ネガティブなオーラを発している人が相手であってもです。
わずかでも「ステキだな」と思ったなら、相手にナチュラルに受け取ってもらえるよう、ステキな部分を伝えることが大切になります。
加賀田氏のように、間接的に褒めることはもっと有効です。
私たちは営業の場面に限らず、常に相手の長所を発見するクセを身に付けたいものです。
あなたに長所を見抜かれた相手は、一転してあなたに好感を抱きます。
私の経験からも間違いありません。