「与えられた枠」という言葉は、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が使った言葉です。
『ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる』(PHP研究所)という本の中で使われています。
人にはそれぞれ「与えられた枠」があります。
鍵山氏は、それを「使い尽くすな」と戒めています。
「与えられた枠」には、いろいろなものが当てはまるので、一口に「これだ」と断定することはできません。
各自が自分にとって「与えられた枠」が何かを見極める必要があります。
例えば、クレジットカードには、利用限度額があります。
ある人は、その限度額ぎりぎりまで使い切ろうとするかもしれません。
そして待ち受けるのは、確実に借金地獄です。
別な人は、クレジットカードの怖さを知っているので、決してリボ払いなどは選ばず、すべて一回払いで済まそうとするでしょう。
クレジットカードひとつとっても、「与えられた枠」をどう使うか問われています。
くどいようですが、消費者金融も一緒です。
例えば100万円まで利用限度額があると、たいていの人は100万円があたかも「自分の財布」であるかのように感じ、目いっぱい使ってしまいます。
そして間違いなく返済に行き詰まります。
消費者金融を「自分の財布」代わりにした人は、かなりの高い確率で首が回らなくなります。
「与えられた枠」を使い尽くす怖さを、私たちは知らなければなりません。
旧安田財閥の創始者である安田善次郎(1838-1921)は晩年、現代の貨幣価値で言えば10兆円もの資産を築いた人です。
安田善次郎は、収入の範囲内で生活することを終生貫きました。
これは「枠を使い尽くさない」生き方の好例と言えます。
安田善次郎の場合は、収入の8割で生活することを心に誓い、残り2割を貯蓄に回しました。
だから莫大な富を築けたと本人は言っています。
収入の二分を貯蓄するということは、最終的には大きい金になるものと思わなくてはならない。
この堅く守るという、自分の立てた主義は、他人が何と評そうが、いかなる誘惑が起ころうが、一歩も曲げたことはない。
これがすなわち、今日の私をつくり上げた要因であると信じている。
参考:『大富豪になる方法』(幸福の科学出版)
とはいえ「枠を使い尽くさない」生き方は、なかなかむつかしいものです。
枠を使い尽くす生き方の悪い例
異論のある人がいるかもしれません。
以前勤めていた会社の営業所長が、「枠を使い尽くす」典型的な人でした。
年齢は50代前半、バブル全盛期のうま味を知っています。
所長は、大の飲み会好きです。
仮に歓送迎会を催すことになったとします。
所長の絶対的な意向で、飲み会は当然、飲み放題プランとなります。
さて居酒屋に入り、120分飲み放題プランで宴会が始まりました。
大体残り30分くらいのところで、居酒屋の店員が「ラストオーダーをお願いします」と言いに来ます。
すると所長は、飲めもしないのに、人数分のビールに加え、酎ハイ、日本酒、ハイボールなどを次々と頼みます。
そして案の定、生ぬるくなったビールのジョッキが何杯も余ります。
もったいないこと、この上ありません。
食べ放題プランが追加された飲み会だと、さらに悲惨です。
「ラストオーダーです」と聞けば、所長が食べもしない料理を大量に注文するからです。
宴が終わってみれば、ほとんど箸の付けられていない料理が、冷え切って並んでいます。
フードロスの削減が叫ばれている現代、大量廃棄を何とも思わないのがバブル世代と言っては、語弊があるでしょうか。
ともかく「枠を使い尽くす」ことを「善」と考える所長でした。
そんな所長をにらみつけている私の視線に気づいたのか、所長が「何か文句があるか? どうせ飲み放題(食べ放題)なんだから、注文しないと損だろ?」と平然と言い放ちます。
所長と私の価値観の違いは、簡単には埋まらないでしょう。
鍵山氏のホテルのエピソード
鍵山秀三郎氏は、著書『ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる』の中で、「枠を使い尽くさない」生き方の例を示しています。
引用します。
鍵山氏は「自分に与えられた枠を控え目にすると、枠はますます広がります」とも言います。
あなたには今、どれだけの「枠」が与えられているのでしょうか。
まとめ
あなたに「与えられた枠」には、「信用」も含まれています。
「信用残高」という言葉があるくらいです。
「クレジット」という言葉は、ウィキペディアによると、ラテン語の「貸し付け」に由来するようです。
「信用・信頼」といった意味も含みます。
お金にしろ信用にしろ、自分の枠を使い尽くさない方が賢明です。
鍵山氏は言います。
自分に与えられた枠をすべて使い尽くすような生き方ばかりをしていますと、人からの信用を失墜します。
あなたの周りに図々しい人、あるいは厚かましい人はいませんか。
多分、そのような人は「自分に与えられた枠をすべて使い尽くすような生き方」をしているはずです。
あなたは、与えられた枠を使い尽くさない生き方をしてみませんか。
ホテルや旅館を利用するとき、常備してある備品はほとんど使わないように心がけています。
理由は、一回使っただけでゴミになったり、そのたびに洗濯をしなければならないからです。
確かに、料金のなかには、石鹸やシャンプーやカミソリ等の代金も含まれています。
だからといって「全部使わなければ損だ」という発想は、浅ましい考えだと思います。
むしろ、そうしたものは使わずに全部残しておく。
与えられたものを使い尽くさない、という考えのほうが心豊かになれるものです。