まずほめる
D・カーネギー『人を動かす』(創元社)の「PART4」には「人を変える九原則」が載っている。目次だけでも列挙したい。
「まずほめる」の原則が一番先に来ている。
「まず批判する」とか「まずけなす」とかではないことに注意されたい。
人は批判されたりけなされたりすると、心理的に抵抗する。
そうすると、こちらの思い通りには動いてくれなくなるものだ。
九原則のうち1つめの「まずほめる」に続き、6つめの「わずかなことでもほめる」の原則があることにも注意されたい。
同書を読めば、威圧的、高圧的に指導して人を変えようとしても、人は動かないことが分かる。
2つめの「遠まわしに注意を与える」、4つめの「命令をしない」、5つめの「顔をつぶさない」は、いずれも相手の自尊心をなるべく傷つけない配慮と言えよう。
パワーハラスメント満載の上司
面白いことに、私の人生でこれまで出会ってきた “上司 ”という生き物は、これらの九原則とは真逆のことを実践してくれた。
まさに反面教師である。
大体、頭ごなしに上から命令し、こちらの言い分を聞くこともなく、「とにかくやれ」としか言わない。
「だからお前はダメなんだ」「こんなこともできないのか」「お前にはムリ」などと本人を目の前にして、平気で本人を貶める。
貶められた部下は、顔をつぶされたという苦々しさでいっぱいになるし、屈辱感にまみれて心が折れてしまうことだろう。
私は何度、屈辱感に打ちのめされたか分からない。
とすると、D・カーネギーが説いた「人を変える九原則」は、時代を超えて通用する普遍的な原則だと言える。
パワハラ満載の上司の言動を引っくり返せば、すべてカーネギーが説いている内容だからである。
具体的にほめたい
人の誤った行動を変えようとしても、むやみやたらとほめればいいというものではない。
上っ面のほめことばは、内実が伴わないので、相手に見抜かれることだろう。
この辺の対処について、カーネギーは以下のエピソードを紹介している。
この場合、ローパーは、お世辞で青年をおだてたのではなかった。製品のどこが優れているか、はっきりと説明したのである。そのために、ほめ言葉が、意味を持って相手の心に伝わったのだった。誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである。
引用:D・カーネギー『人を動かす』(文庫版)292ページより
お世辞では、相手の心に届かないのだ。自分が心から感心していることについて、相手をほめたい。
期待をかける / 激励する
仕事上、私もパートやアルバイトの社員にフィードバックをすることがある。
もちろん、改善点を伝えるが、そのときには決して本人の顔をつぶすようなことはしない。
中には、私よりも年齢が一回り以上も上の年長者もいる。
その年長者は、若いころ、就職ランキングの上位に挙がっていた大手旅行会社※に勤めていたという話をしてくれたことがあった。※株式会社JTBのことである。
当時は求人倍率が高い、誰もがうらやむ大手一流企業であった。
その年長者からすれば、当然プライドもあるだろう。
そのような相手に対して、私が頭ごなしに「全然ダメですね。今度からは必ずこうして下さい」などと命令でもしたら、どうだろう。
本人の働く意欲は確実に削がれてしまうことだろう。
批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。
引用:D・カーネギー『人を動かす』(文庫版)293ページより
理想論と笑われるかもしれないが、なるだけ相手のよいところを見つけ、期待をかけて、誤った行動を変えてもらうように促したい。
そのために「まずはほめる」そして「遠まわしに注意を与える」「自分の過ちを話す」「命令をしない」「顔をつぶさない」「わずかなことでもほめる」「期待をかける」「激励する」「喜んで協力させる」の九原則を心に留めたいものだ。
1 まずほめる
2 遠まわしに注意を与える
3 自分の過ちを話す
4 命令をしない
5 顔をつぶさない
6 わずかなことでもほめる
7 期待をかける
8 激励する
9 喜んで協力させる