会話をするときに相手の名前を呼んであげることは、相手を重要視していることを表すもっとも手っ取り早い方法です。
これはテクニックではありません。
生き方の問題です。
ただし、相手の名前を間違えたら失策となります。
相手の名前を意識して記憶にとどめ、なるべく相手の名前を呼んであげることによって、あなた自身も相手から好かれるようになります。
名前を意識するだけで、あなたは相手の懐に飛び込んだも同然です。
名前を覚えることは、相手に自己重要感をもたらす強力な武器になるでしょう。
名前を覚えるのが苦手だとどうなるか
私の以前の職場に、人の名前を覚えるのが苦手だと打ち明ける同僚がいました。
でも、だれもが最初から人の名前を覚えることが得意なわけではありません。
酷な言い方かもしれませんが、人の名前を覚えるのが苦手というよりも、覚える気がないといった方が正確でしょう。
私は、新潟県内のとある進学塾で講師をした経験があります。
担当のクラスを持たされ、先輩講師から最初に告げられたことは、「生徒全員の名前を覚えること」でした。
40人学級ではありませんので、多くても30人程度です。
少ないクラスだと10人程度の人数です。
とにかくクラスを受け持つ前提条件が、全員の名前を覚えることでした。
名前を覚えることが最優先事項だったのです。
これは学校の先生も同じでしょう。
覚えるには、意識するしかありません。
私の場合は、名前から連想されるものをもとに記憶を呼び戻すようにしました。
例えば、私は最近、オガタという仕事の関係者と知り合いました。
名前を覚えるために私が採った手段は、1990年代に巨人軍で活躍した緒方耕一と結び付けることです。
「この人は何という名前だったかな? そうだ巨人軍のオガタだ」といった具合に名前を連想で思い出すのです。
人の名前を覚えるのが苦手という人は、人の名前を何かと結び付けて覚えるとよいでしょう。
意識して連想するようにすれば、意外と人の名前を覚えられるものです。
加賀田晃氏の営業ロープレから
1946年生まれの加賀田晃氏は、飛び込み営業で契約率99%を達成するなど、尋常でない契約率の高さから「営業の神様」と呼ばれた人です。
『営業マンはお願いするな』(サンマーク出版)などの書籍を出しています。
この加賀田氏が、受講生(ハシヅメ営業主任)と電話通信サービスに関するロープレをした様子が、「加賀田式セールスの全て セールス六法」のDVDに収められています。
商談中なら、「お客様」と呼びかけるより相手の名前・固有名詞を使った方が相手を気分よくさせるということです。
飛び込み営業の修羅場をくぐってきた加賀田晃氏の教えです。
加賀田氏の場合、飛び込み営業先で真っ先に表札の名前を確認してから、相手の名前を間違わずに呼びかけ、何度も相手の名前を使うことによって信用を勝ち取ったに違いありません。
これは営業にとどまらず有効なテクニックとなります。
でも小手先のテクニックと勘違いしてほしくはありません。
相手に深い関心を寄せているという意味で、相手の名前や固有名詞を使うのです。
相手をリスペクトするからこそ、名前を呼ぶのです。
最近、コールセンターで講師をしている30代後半の女性と出会いました。
彼女は、受講生の心をつかむのが非常に上手でした。
見ていると、受講生の名前をすぐに覚えます。
そして時には下の名前で「シンさん」「ユキちゃん」などと呼びます。
見たところ、コールセンターでお客様対応が上手な人は、電話口の相手を「お客様」と呼ぶより、「〇〇様」と呼んでいるようです。
「名前を呼んであげる」というテクニックは汎用性が高いので、どんな仕事でも応用が利きます。
ベストセラー『人を動かす』の教え
D・カーネギーの『人を動かす』(創元社)は、1936年に書かれた本なのに、いまだにベストセラーとして紀伊国屋書店などに並んでいます。
それだけ普遍的な内容が記されている証左でしょう。
私が知る大手企業・富士ゼロックス株式会社の元営業所長は、全社的に『人を動かす』を読むよう勧められたと話してくれました。
グループの総売上が1兆円を超す企業で、『人を動かす』を読むことが推奨されたというのです。
今でも元営業所長は、営業の心理を学びたいなら『人を動かす』を読むよう勧めています。
この『人を動かす』の中に「名前を覚える」という章があります。
著者のD・カーネギーが何と言っているか抜粋しましょう。
「人間は他人の名前など一向に気にとめないが、自分の名前になると大いに関心を持つものだ」
「TWA航空のスチュワーデス、キャレン・カーシュは、乗客の名前を素早く覚え、その名で乗客に呼びかけることにしていた。その結果、おぼただしい賛辞が直接本人あて、また、航空会社あてに寄せられた」
「フランクリン・ルーズヴェルト(注:米国第32代大統領)は、人に好かれるいちばん簡単で、わかりきった、しかもいちばん大切な方法は、相手の名前を覚え、相手に重要感を持たせることだということを知っていた」
「名前は、当人にとって、最も快い最も大切なひびきを持つことばである」
名前を覚えて呼んであげることが、いかに相手の重要感を満たすかが、豊富な事例とともに紹介されています。
あなたもきっと、名前をまったく呼んでくれない相手より、何度も「○○さん」と名前を呼んでくれる相手の方に、好意と好感を持つに違いありません。
まとめ
人間関係の潤滑剤としても利用できるのが、相手の名前です。
会話をするとき、意識して相手の名前を呼びかけるようにすれば、ぐっと心理的な距離が縮まることでしょう。
もちろん日常生活に生かせるだけでなく、職場や営業先でも使えます。
名前を覚えるのが苦手なら、連想ゲームのようにして相手の名前を何かと結び付けて覚えるのも手です。
「営業的コミュニケーションのすすめ」として私がぜひ使っていただきたいテクニックの一つが、「相手の名前を呼んであげる」ということです。
これは意識さえすれば、今日からでもすぐに始められます。
ハシヅメ営業主任:まず、お客様のお手元に届いているNTTの請求書…
(ここで加賀田氏が指摘をするため、ロープレが中断)
加賀田氏:お客様と言っちゃいけない。君、ハシヅメ君よね? 会社はコミュニケーションラインよね? それを「あなた」とか「お客様」って言われるより、「ハシヅメさん」と名前を、固有名を呼んでもらった方が、気分がいい。
それを不特定多数じゃあるまいし、「お客様のところに」とかそういう抽象的な言い方はしない方がいい。
「こちらのコミュニケーションラインさんの場合」(といった具合に)固有名詞を言う。会社名、相手のお名前が分かっているなら相手のお名前。「カガタさん」(といった具合に)。「お宅」とか「お客様」という言い方はしない。なんか他人行儀、空々しい。はい、どうぞ。
(ロープレ再開)
ハシヅメ主任:現在カガタ様のところにお届けになられているNTTの請求書ございますよね?
(しばらくロープレは続く)
ハシヅメ主任:「大変失礼ですけども、毎月NTTの方から届いております、NTTのこういったお電話の請求書届いておりますでしょうか?」
加賀田:「どこに?」
(いったんロープレは中断)
加賀田:何を言うときも、お名前を添えて話しなさい。「こちらのミヤコ商事様に」とか「カガタ主任さんのところにはNTTからの請求書先月分、もう届いておりますでしょうか?」(といった具合に)。固有名詞を添える、名前を添えて。はいどうぞ。
(ロープレ再開)
ハシヅメ主任:毎月こういったNTTの請求書が(といって名前を添え忘れたことに気付き)すいません。ミヤコ商事様のところにはこういったNTTの請求書、お電話料金届いていますでしょうか?
加賀田氏:はい。
(その後、ロープレは続くものの、再びハシヅメ主任が名前を付けるのを忘れる)
ハシヅメ主任:現在、お客様、お使いいただいて…
(再びロープレ中断)
加賀田氏:お客さんじゃないって。「カガタ主任様、主任さんのところで」とか「こちらのタナカ商事様では」とか。
(ロープレ再開)
ハシヅメ主任:現在ミヤコ商事様のところでお使いのお電話料金…(と続く)