「自分の得意なこと見つけるんは、ある意味義務やで」。
水野敬也著『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)の中に出てくるゾウの神様ガネーシャの言葉です。
自分の得意なことを無視して生きようとするなら、この世はとてつもなく生きづらい世の中になるでしょう。
伝説のバスケットボール選手マイケル・ジョーダンが、一時期プロ野球選手に転向し、パッとした成果を上げられなかったように。
ガネーシャは、自分の得意なことは他人に聞くべきだと言います。
自らの思い込みで、勝手に「これが得意」と思い込むと、ヤケドを負う可能性があります。
あなたは、他人から「~が得意なのではないか」と言われたことがありますか。
もし言われたことがあるなら一考に値します。
他人はあなた以上に、あなたの強みが何かを把握していることがあるからです。
強みの上に築け
『夢をかなえるゾウ』は、テレビドラマ化されるなど、話題になった作品です。
会社員の主人公とクセのあるガネーシャの軽妙なやり取りの中に、人生の真実が隠されているという奥深い小説です。
一部を引用します。
ガネーシャの言葉に、すべて言い尽くされています。
「自分が社会に貢献できる得意分野があるのに、それをやらんいうのは、当然支払われるもんも支払われへん」という言葉が、特に印象的です。
あなたは、自分が社会に貢献できる得意分野を生かして、生計を立てているでしょうか。
日本郵政の部長だった人の失敗
日本郵政株式会社が、民営化される前の日本郵政公社だったとき、私の知人は40代前半にして営業部長の肩書を持っていました。
相当力があったはずです。
自分の得意分野を存分に発揮し、誰からも注目される働きぶりだったに違いありません。
組織の中で人望も厚く、もちろん部下を抱えていました。
その知人が何を血迷ったか、ある自己啓発教材に魅了されて、販売する仕事をやりたいと言い出します。
そのため、郵政公社で獲得した地位も名誉もすべてかなぐり捨てました。
奥さんには「辞めないで」と泣きつかれたそうです。
もちろん両親にも大反対されたと話していました。
結果はどうだったか。
知人は、自己啓発教材の販売だけでは食べていけなくなり、結局、生命保険会社に転職しました。
見る影もなくなったとは、このことです。
私は、郵政公社を辞めると聞いたとき、とてももったいないと感じました。
せっかく郵政公社という大組織の中で、その能力が認められて実績を上げたのに、その職責を捨ててしまったからです。
周囲からも認められ、若くして部長クラスにまで昇進したのに、なぜだれも見向きもしないような自己啓発教材を販売する世界に飛び込んだのか分かりません。
この知人などは、「自分が社会に貢献できる得意分野があるのに、それをやらん」という残念な例です。
でも、果たしてこの知人だけがこうした残念な生き方をしているでしょうか。
意外と多くの人が、自分が社会に貢献できる得意分野があるのに、それをしない人生を送っているのではないかと思われます。
私自身も例外ではありません。
まとめ
「自分の得意なこと見つけるんは、ある意味義務やで」。
キング・オブ・ポップで知られるマイケル・ジャクソン(1958-2009)は、人には「Gift」が与えられていると言います。
「Gift」は贈り物という意味ですが、単純に物としての意味だけでなく「神から与えられた才能」という意味もあります。
私はマイケルの生き方に感銘を受けます。
自らの「Gift」を自覚し、最高のパフォーマンスを発揮することに心血を注いでいたからです。
自分の得意分野を見つけ、徹底的に伸ばすことが成功につながるなら、さっそく「自分が一番得意なこと」を人に聞いてみてはいかがでしょうか。
自分の得意分野、または「Gift」を知ることは、私たち一人ひとりに課せられた義務です。
「ピーター・ドラッカーくんがこんなこと言うてたな。『強みの上に築け』て。
自分の得意なことを徹底的に伸ばしていくんが成功につながるっちゅう意味や。
知っとるやろ?」
「知りません」
「無学やな。
完膚なきまでに無学やな。
じゃあ、マイケル・ジョーダンくんは?」
「そりゃもう、知っています。
伝説的なバスケットボールの選手ですよね」
「そや。あの子なんやけど、一時期、急にプロ野球に転向したの覚えてへん?
ワシが『やめとき』て言うたのに『同じスポーツやからイケる思いますわ』言うてな。
無邪気な子やで。でもその年の結果は打率二割〇部二厘や。
まあ頑張った方やけど、第一線で活躍できる数字ちゃうわな。
まあでも、ジョーダンくんのすごいんは、そのあとまたバスケに復帰してブルズを優勝に導いたとこなんやけどな」
「へぇ……」
「でも、たまにおるやろ、成功した実業家が急にテレビ出はじめたり、歌手が急に絵を描きはじめたり……。
そういうの見るとなんか『違う』て思えへん?
そりゃ当然や。
そんなことしとったらお客さんに対して失礼やもん。
自分が社会に貢献できる得意分野があるのに、それをやらんいうのは、当然支払われるもんも支払われへん。
まあ若いころは自分に何が向いてるか分からんで、うろうろしとるものええんやけど、自分の得意なこと見つけるんは、ある意味義務やで」
「なるほど」
「よし、今日の課題はこれや。
『自分が一番得意なことを人に聞く』」
「それは、自分の得意分野を知るためですね」
「そうや。ポイントは『人に聞く』っちゅうことやで。
自分ではこれが得意分野や思うてても、人から言わしたら全然違てることてあるからな」
「確かに、他人のことは良く分かっても、自分のことになった途端、分からなくなる人は多いような気がします」
「そやろ。でも、さっきの話でもそうやけど、自分の仕事が価値を生んでるかを決めるのはお客さん、つまり自分以外の誰かなんやで」