本サイトの記事を読めば、あなたはダメな質問のパターンの一つ、「刑事の尋問」の問題点を知ることができます。
さて、弁護士の谷原誠氏が書いた『人を動かす質問力』(角川新書)にダメな質問のパターンが7つ紹介されていました。
その一つに「刑事の尋問」というものがあります。
尋問とは、明鏡国語辞典(第二版)によれば「問いただすこと。特に、裁判官や警察官が取り調べるために質問を発すること」を指します。
常用外の漢字を使えば「訊問(じんもん)」。
「訊(き)く=問いただす」といった意味があります。
「問いただす」の意味は、明鏡国語辞典に「厳しく問い責めて、不明・不審の点などを明らかにする。糾明する」と書かれています。
親密な関係にある相手に対して、会話で「厳しく問い責める」場面はあまりないはずです。
谷原氏はこうした「刑事の尋問」を会話で使うことはNGであると指摘しています。
一方的な質問はストレスを与える
谷原氏の著書を引用します。
ダメな質問パターンの最後は刑事の尋問です。
犯罪の被疑者とされ、逮捕されて刑事の取り調べを受けるとします。
「年齢は? 住所は? 家族は? 」、刑事は矢継ぎ早に質問を繰り出します。
それに答えるストレスたるや相当なものです。
げっそりしてしまいます。
しかし、それと同じことを日常で行っている人がいます。
矢継ぎ早に質問を続けられ、それに答えさせられることに苦痛を感じることがわからないようです。
コミュニケーションでは、双方のバランスを取ることが大切です。
一方が質問を続け、他方がこれに答えることを続けていると、通常はお互いのバランスが崩れ、答え続ける側がストレスを感じます。
したがって、適度に自分から情報を与えたり、相手の答えを賞賛したりして、お互いのバランスを取りながら質問をしなければなりません。
矢継ぎ早に質問を投げかけられると、プレッシャーを感じるのが人間です。
面接の場を想定してみてください。
面接官からあなたに質問が飛んできます。
あなたは面接官の質問の意図を注意深く探りながら、簡潔に答えなければなりません。
面接官の質問の意図を超えてしゃべり過ぎたり、的外れな答えを返したりしてもいけません。
面接で正確なコミュニケーションを心掛けようとすればするほど、緊張を強いられるはずです。
刑事に尋問された経験
私は20代のとき、警察から呼び出しを受け、「尋問」(事情聴取)を受けた記憶があります。
別に私が罪を犯したわけではありません。
刑事によると、私の勤めていたホテルでちょっとした「事件」が発生し、その関係者に聞き込みを行っているとのことでした。
上場企業の男性社員が夜に同僚の女性をホテルに連れ込み、暴行したという事件でした。
被害を受けた女性が告訴したもようです。
事件当日の夜、ホテルでフロントを預かっていたのは私一人だけでした。
いわゆる「ワンオペ」です。
その日のことは、私も覚えていました。
いつもは紳士風の上場企業の男性が、酔っぱらいながら女性を引きずるようにしてホテルへ誘っています。
女性の表情は硬く、喜んでいないのが一目瞭然です。
その男性は常連客の一人でした。
男性から「少し部屋で休ませるだけだからいいだろう?」と言われ、私は同伴者である女性の入館を許可した記憶があります。
しばらく経ってから、女性が怒ったようにしてホテルから出ていきましたが…。
これが「暴行事件」だったと知るのは、刑事から「尋問」(事情聴取)を受けたときです。
私は当日の夜の状況を聞かれるがままに答えていました。
刑事が「それで女性はしばらく経ってからホテルを去ったのですね」と言うので、私は「ええ、カツカツカツとハイヒールの靴音を響かせて、足早に女性が怒ったようにして出ていったのを覚えています」などと答えました。
ただ、人の記憶は頼りないものです。
後日、加害男性の弁護士から呼び出しを受け、行くと「当日の夜、女性はハイヒールを履いていなかったのですが、あなたの供述には靴音を響かせていったとあります。もしかしたら記憶違いではありませんか」と言われました。
ホテルには確かに女性客も泊まりに来ていました。
もしかしたらその客と勘違いしていたのかもしれません。
そこで私は弁護士に対して「ええ、記憶違いだった可能性があります」と答えました。
裁判沙汰に発展した事件のその後のことは知りません。
ただ、私がもしもホテルのフロントの入り口で、本来は認められていない同伴者の入館を断っていれば、未然に防げた事件かもしれません。
毅然とした対応をとらず、客の要望(我がまま)に目をつぶったのが過ちでした。
上場企業の社員の人生を狂わす原因を作ってしまった一人とも言えるでしょう。
刑事は自分の聞きたいことしか聞かない
覚えているのは、刑事がパソコンを使いながら供述書を作成していたことです。
あらかた文章の型は完成していたに違いありません。
私に対する「尋問」(事情聴取)を終えると、紙をプリントアウトし、署名・捺印を求めてきました。
私は刑事のてのひらの上で転がされていたようなものです。
やり方に少しあざとさを感じたのを覚えています。
「尋問」(事情聴取)は一方的なものです。
ときに誘導さえ駆使されることがあります。
私たちの普段の会話に「尋問」が使われるなら、コミュニケーションは一方通行のまま。
相互理解が深まることはないでしょう。
まとめ
もう一度、谷原氏の言葉を引用します。
コミュニケーションでは、双方のバランスを取ることが大切です。
一方が質問を続け、他方がこれに答えることを続けていると、通常はお互いのバランスが崩れ、答え続ける側がストレスを感じます。
したがって、適度に自分から情報を与えたり、相手の答えを賞賛したりして、お互いのバランスを取りながら質問をしなければなりません。
あなたが話す相手と心を通わせたくないなら、良い方法があります。
あなたが一方的に質問を投げつければいいのです。
質問攻めにすれば、相手は音を上げて退散するでしょう。
若い女性OLがキモ親父を相手にしたくない場合は、矢継ぎ早に質問を繰り出すことが効果的です。
そうすれば、イヤな相手を退けることができます。
でも、好きな相手との会話を盛り上げようと思うなら、適度に質問し、適度に自己開陳するといったバランスが重要です。
その際、相手の答えにきちんと触れてあげることが、一方的な会話にならないコツです。
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